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LEAF〜麦わら帽子のホムンクルス〜
Story-02:新しい家族

レオンはゲフェン北東の宿屋の裏側、
日照の悪い地下室のような小さな部屋を借り、そこで生活した。
日中はポーションの材料となるハーブ狩りに出かけ、
人通りの多い夕方になると、精製したポーションを売って、生計を立てていた。

宿屋の常連とも親しくなり、顧客も増えた。

だが…すべてを捨て、新しい人生を歩むものにとって、
商売がうまくいくことよりも、もっと必要なものがあった。

「家族が…欲しい。」

レオンはアリアを失ったショックから、人との触れ合いを拒絶するようになっていた。
意識してやっているわけではない。だが…レオンは無意識のうちに、
商売仲間や宿屋の常連たちと距離を置いていた。
飲みに誘われる機会もあった。だがそのほとんどを断り、
部屋で錬金術の勉強をし、ひとりで時間をつぶす日が続いた。



レオンは、ふとホコリのかぶった古書の棚に目をやった。
そういえば、アルケミストに転職して以来、生活を食いつなぐために、
ポーション作成以外の本は読んでいなかった。

アルデバランでの修行時代、とても興味を抱いた本があった。
ホムンクルス──古の錬金術により生み出されたとされる人造生命体だ。

過去に成功しているホムンクルスのタイプは4種類ある。

植物と動物の遺伝子をひいている「リーフ」、
動物の遺伝子から作り出されたとされる「フィーリル」と「アミストル」、
そしてアメーバのようなゼリー状生物「バニルミルト」。

その中でもひときわ興味をひいたのが少女のような姿をしているホムンクルス「リーフ」だった。
実際にこの目で見たことは少ないが、非常に愛らしい姿をしている。
教えれば人語も理解するし、おおよその雑事をこなすほどの知能も身につくという。

エセアルケミストの自分にホムンクルスを生み出す能力があるだろうか。
…自信はなかった。だが、それ以上に、レオンは自分と共に暮らしてくれる家族が欲しかった。
ポーションを売ることで築いた財産を費やして材料集めに奔走し、
材料が集まるとレオンは自分の部屋にこもりきりになり、「リーフ」を生み出す実験を始めた。



宿屋の仲間も心配して、レオンの実験を見届けにきた。
そして1ヶ月、羊水で満たされた大きな飼育ポットの中に、
その少女は生み出された。

まだ体長数センチ。人間でいうところの胎児のような姿をしている。
ヘタなアルケミストがホムンクルスを作り出そうとすると、
だいたいこの時期に水温や培養液の成分を調節できずに死なせてしまうという。

レオンはますます部屋にこもりっきりになった。
だが、不思議と、孤独感はなかった。
目の前にいる親指サイズの命が、これから新しい家族になるのだから。
寝る間も惜しんで、レオンは毎日飼育ポットを見守った。

半年が過ぎた。季節は春になろうとしている。

ホムンクルスの少女はいよいよ飼育ポットから出て、レオンと一緒に生活していた。
人間に換算して、3歳くらいだろうか。ホムンクルスは人間よりもはるかに成長が早い。
レオンはぐんぐんと成長するリーフの体格に合わせて、何度も服を編みなおした。

レオンはホムンクルスの少女に「ユミィ」と名前をつけ、我が子のように可愛がった。
いたずらをされても、レオンはほとんど怒らなかった。
部屋は落書きだらけ。錬金術関連の本の大半が、使い物にならなくなった。
どうせ部屋を引き払うときに、すべて修理して出ていけばいいさ。



ユミィが生まれてから、レオンの心にさわやかな風が吹いた。
過去の傷などどうでもよい。僕には大切な家族ができたのだから。


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