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LEAF〜麦わら帽子のホムンクルス〜
Story-05:そして恋人へ

ユミィの成長が止まった。

そう、ホムンクルスには、成体になるまでの間に、一度成長が停止する時期がある。
ふたたび成長を始めるには賢者の石というアイテムが必要で、これは非常に希少価値が高い。
無論値段も張る。たまにプロンテラの露店で見かけても、レオンには手の届かない額だ。

自分の胸元のラインより背が伸びなくなったユミィを見て、レオンはすこしもどかしく思えた。

やはり、人間とは違うのだ…と。認めざるを得なかった。
ルビーのような紅い瞳も、植物のような形の髪も、
レオンは差別対象としては見なかった。

ユミィは人間とほとんど変わらない。
愛らしさ、感情、そして心がある。
ヘタをすれば今は人間のほうが、よほど機械的に見えるのだから。

レオンは、はやくユミィを大人にしてあげたかった。
ひざを折らなくてもキスができるくらいのプロポーションがあれば、
2人並んで歩いても、親子には見られないだろう。

プロンテラ噴水通りの一等地を買って、
大きくなったユミィと一緒にお店をやる。

レオンに夢ができた。



今日は珍しくプロンテラ南に出て露店を開いた。

これから魔物討伐に出かけるパーティなどが、露店を訪れてポーションを買ってくれた。

「たまにはいいな。」

青空の下、レオンはユミィと一緒に商売をする。
最近のユミィはつり銭勘定まで任せられるようになっていた。

外地には、色々な人がいる。
僕たちのような露店商人、パーティメンバーの募集、
ギルドという大人数団体の徴兵など。

ホムンクルスを連れたアルケミストもたまに見る。

違う種族同士でも、ホムンクルス同士だと会話をしたり目あわせをしたりしている。
鳥のような形のフィーリル、羊のような形のアミストル。
ちゃんと意思の疎通はできるようだ。

だいたい日が暮れるまでに、昨日作ったポーションのほとんどが売れた。

レオンは荷物を撤収し、カートに詰めて帰る支度をする。
すると…。

いぜん一緒に魔物討伐に出かけた短髪のリーフが、
ひとりプロンテラ南門近くの木の下で座り込んでいた。

体全体がまるでゴーストのように半透明になり、むこう側が透けて見えた。
武器などは、携行していない。服も、古びたローブ一枚で、あとはすべて外されていた。
リーフ独特のみずみずしい肌はひび割れ、髪の毛は艶を失い、ひどくやつれた顔をしている。

「これは……。」

レオンはリーフに歩み寄り、体を調べようとした。
ところが…!

バシィイン!!

右手にすさまじい衝撃が走る。
レオンは一瞬何が起こったのか分からなかった。

「さわらないほうがいいぜ。」

近くにいた露店商人に声をかけられた。
レオンははっとなり、自分の右手に目をやると、
なんと彼女と同じように、みるみる半透明になってゆくではないか…!

「……!」

「消えかけのホムンクルスはこの世とあの世の狭間にいるんだ。
 だから触れた人間もあの世に引き込んでしまう。」

時間がたつに連れ、レオンの右手は徐々に元通りに回復したが…。

彼女はこちらを見て、悲しそうに笑った。ユミィがふいに目を覆う。
よく見たら、彼女の右手は、手首から先がなかった。
戦闘による負傷だろうか。これではもう、弓矢を扱うことはできない。

短髪のリーフは目が虚ろのまま、遠くを見ていた。
臨時パーティー募集広場の向こう。
そこに、あたかも自分の主人がいたかのように…。

「この子、すてられたんだ…。」

ユミィは状況を理解した。
食事は、通りすがる人間が多少は与えているようだが…。
ホムンクルスは、主人からの愛情をもらえなくなると体を保てなくなり、消えてしまう。

これはもう末期の状態。
あと数日もすれば、彼女は完全にこの世から消えてしまうだろう。

だが、レオンは彼女を連れて帰るわけにはいかない。
アルケミストが従えることのできるホムンクルスは、自分で生み出した1体のみだからだ。
100%の愛情を2人同時に注ぐことなど、できるわけがない…。

レオンは彼女にパン1斤と、クッキー、チョコレートを渡して帰った。

レオンとユミィは毎朝、露店の仕度をしながら彼女の様子を見に行った。
だが、ちょうど5日後、彼女の姿は南門にはなかった。
彼女がいた場所には、花束がいくつか置かれていた。

飼い主だったゴダーニも、
最後、数人の討伐隊と共にグラストヘイム古城へと旅立ち、その後の消息を知るものはない。
かつてはレオンも戦いに身を置いていた人間。ゴダーニの非情さを責めることはできなかった。

ユミィは、それからしばらくの間、リーフの死がトラウマになった。
単純に生き物を飼うといった概念とはちがうんだと、レオンは思い知らされた。



2人に別行動する時間が増えた。

もうユミィは、レオンと常時くっついていなくても暮らしていける。
ポーションを瓶に詰めたり、値札をつくったり、包材をカッティングしたり。
商売に必要な簡単な作業ならば任せられた。

さすがに…町の外を一人で歩くのは禁じたが。

ユミィはレオンのいないスキを見て、本屋で時間をつぶした。
もっと、世の中のことが深く知りたかった。
レオン以外の人が外でどういう暮らしをしているか知りたかった。

交易、地理、自分の生まれた町のことなど、
本屋の店員に白い目で見られながら、毎日立ち読みした。
どうしてもおもしろい内容の本があったときは、レオンにねだって買ってもらった。

ひときわ興味をひいたのが、恋愛を描いた本だ。

羞恥心のないユミィは、たとえそれがポルノ小説であろうと、堂々と本屋で広げて読んだ。
レオンは自分がユミィに性行為を要求していることを隠蔽するため、
ユミィにはあまりそのへんの知識はあたえていない。

読めない字があると堂々と隣のニーチャンに読み仮名を尋ねた。
あまりにその様が見苦しいときは店員につまみ出されたが、懲りずに毎日通った。

まじめな恋愛小説なども、毎日少しずつ読み進み、今の自分とレオンの関係に照らし合わせた。
レオンは、自分に女性を求めていて、そしてそれを満たすために、
毎日自分と性行為をしているんだと理解した。

急に、はずかしくなった。

毎日レオンとキスをするとき、ためらってしまう。
あぁ、こうしてキスをしているときも、レオンは私のこと女として見ているのかな、と。
今の自分の存在は、果たしてレオンにとってプラスになっているのだろうか…?

それからユミィは、少しずつレオンを突き放すようになっていった。



レオンはお風呂を沸かすために薪を焚いた。
風呂場は狭いが、体の小さなユミィとレオンなら一緒に入れる。
レオンは薪をくべ、ひどく段差の激しいブロックの階段を上って家の中へ戻った。

部屋に戻ると、ユミィがせっせと乳鉢でハーブを練っている。

「よし、すこし難しいけどスリムポーションを作ってみよう。」

レオンはユミィにちょっとだけ製薬の技術を教えてみた。
スリムポーションというのは圧縮したキズ薬のことで、攻城戦のような長時間の戦闘において、
あまり荷物を持てない兵士たちに好んで使われる。

できたポーションをさらに精製し、密度を高める。
さすがにユミィもイタズラをする歳ではなく、真面目に取り組んだが…。
失敗、失敗、また失敗。部屋の中がポーションだらけになった。

「おぇっ、くっさーーーーーーーーー!!」

レオンはバタムとドアを開けて飛び出し、部屋の外でむせかえる。
木陰に座って深呼吸。ユミィは平然としたままちょこんとひざに座る。

「…何入れたんだよ?」

「…ごめん、カビの粉と魔女砂まちがえた…。」

「……(汗)。」

ふきこぼれた謎の液体が部屋中を濡らし、飛び散っている。
また掃除からやりなおしだ。

「ぉぇっ、ペッペッ」

レオンはホーキとちりとりを持ったまま、涙が出てとまらない。

「そんなにむせなくてもいいのに…。」

ユミィは鼻を真っ赤にして咳き込むレオンを見て、不思議そうに見ている。
リーフも植物の遺伝子を継いでいるから、カビには強いのだろうか…。

「今日は、もうやめにしよう。」

材料はひどく無駄になったが、レオンは楽しかった。
レオンは掃除を終えるころに、ちょうどお風呂が沸いた。



ザッブーン!

飛び散ったポーションやポーションでないものを洗い流すため、頭までお湯に漬かる。
ユミィはもじもじしながら、レオンと一緒に浴槽に漬かる。
小さなおしりがレオンの脚に触れると、たちまちレオンの肉棒が大きくなった。

ユミィはレオンの男根を弄ぶようにツンツンして、意地悪そうに笑う。

2人の仲は相変わらず変わらない。朝も晩も、キスで始まり、キスで終わる。
だが…ここのところ、ユミィはレオンに対して性干渉をたまに拒むようにしていた。
拒む回数が増えてゆくと、レオンは次第に怖くなった。

ユミィがだんだん女らしくなってゆくにつれ、それが顕著になった。

まるで、ユミィがひとりの女性として独立し、どこかへ行ってしまうんじゃないかと…。
不安でレオンは、ますますユミィを手離したくなくなった。

お互いの体を洗い、流し、また浴槽に漬かる。
レオンはユミィの体を抱き寄せ、自分の胸板の上でだきしめる。

濡れた体でキス。風呂場に響く水音がどこか卑猥で、2人の気持ちを盛り上げる…。
ほっぺから首筋にキスをして、髪を撫でる。

でも…ユミィの目が、いままでと違う。
いぜんなら教えられた快感を、教えられたままむさぼっていたのに。
今は…どこか違う。
心がここになかったり、悲しそうな目をしていたり。

ユミィは、不安でいっぱいといった表情のレオンの瞳を、真摯に見つめていた。
ユミィはレオンの心の中が手にとるように分かった。

ザプン…。

レオンは浴槽の中で立ち上がり、ユミィにフェラチオをねだった。

「なめて…。」

ユミィは応じない。
下をむいて首を横に振った。

レオンはユミィを持ち上げ、体を拭いて部屋に先にいかせた。
なぜだろう…。不安で目の前が真っ暗になる。
一度、セックスの味をしめた男は、同じ女とセックスをしない事に耐えられない。
このまま俺はユミィと疎遠になってしまうのだろうか…。
これから先、家族として、うまくやっていけるだろうか…。

不安がどんどん大きくなった。



歯磨きをして、レオンはベッドで寝転ぶユミィの隣に寝た。
ユミィはレオンに背を向けたまま、小説の続きを読んでいた。
レオンは、ユミィにキスをすることさえ怖くなっていた。

時計の音が、無駄に大きく聞こえる。

レオンは眠れない。
本を読むユミィの仕草を、横目でじっと見ていた。
ページをめくる手つきまで、大人びて見える。
堂々と半ケツを出して寝ていたパジャマの着方も、最近ではめったに見られない。

…パタリ。

しおりを本に挟み、ベッドサイドの棚にしまう。
ユミィは眠れないレオンの上にまたがり、強引にキスをして、また隣で横になる。
背は向けないものの、胸や脚を押し付けての誘惑はしない。

2人は目を開けたまま、天井を向いて寝た。

時間が経つのが遅い。
ユミィの吐息が遠い。
ユミィの香りが遠い。

…カチッ。…コチッ。…カチッ。…コチッ。

鳴り続ける秒針。
揺れるカーテンや、スタンドの灯りばかりが目に入る。
レオンは胸がしめつけられるようになる。

ユミィはレオンの心が気になるのか、とうとうごろんと横になり、背を向けてしまった。

レオンは血液が凍るような感覚を覚えた。
…つらい。…せつない。
こんな日が、毎晩続くのだろうか。

ガバッ!

レオンは急にガマンができなくなり、ユミィの体におおいかぶさった。
まるで強姦をするように、無理矢理ユミィの唇をふさいだ。
パジャマを強引に脱がしたら、ボタンが2つ飛んで床に跳ねた。

犯してやりたい…! 本気で思った。

「やだ!…やだ! …したくない!」

ユミィは力いっぱいにレオンの上半身を跳ね除けた。
泣きそうな顔をして。
レオンはとたんに我に返り、ユミィを犯すことをやめた。

はっきりとユミィの口から「したくない」と言い放たれた。
なぜだろう…。ここのところ、ずっとこんな感じだった。
レオンとユミィはベッドの上に並んで座り、お互いの感情をたしかめあった。

「どうして…?」

静かな部屋に声がひびく。
ユミィは、いよいよ勇気を振り絞り、ほんとうのことを言わざるを得なくなった。

「わたし…いっぱい本で読んだ。恋愛のこととか。親子のこと。セックスのこと。」

「…!」

それだけでレオンにとっては答えだった。

「はじめは何もわからなくて…。これをすれば、レオンは喜んでくれるんだと思って…。
 レオンのしたがること、ぜんぶ、受け入れていたけど…。」

「ごめん、僕は…。なにも知らない君に。」

「…私は幸せだったよ。レオンは、私のことを大切にしてくれる。
 体に触れられるのも、手や口でしてあげることも、別にイヤじゃない。
 でも、これは…人間の親子なら、しないことだよね?」

「…あぁ。」

正直に答えるしかなかった。

「もう、やめよう。こういうことするの。」

「セックスをするのは…嫌いかい?」

「うぅん、きらいじゃないよ。
 すれば気持ちいいし、私も、レオンの事が好きだから。」

「では、なぜ…?」

「わたしは、レオンの赤ちゃんを産めないんだよ。」

「…。」

「レオンは優しい人だから…。とてもいい人だから…。
 わたしじゃあなくて、ちゃんと人間の女の人と、一緒になってほしい。」

…返す言葉がなかった。
ユミィが、自分の知らない間に、こんなに大人になっていたなんて。
溺愛して我を失っていた自分が、はずかしく思えた。

だが…。ここで「はいそうですか」と、退くわけにはいかない。
レオンは、ユミィを力いっぱい抱きしめた。
ボタンのちぎれたパジャマの隙間がレオンの胸に当たり、体温が直に伝わる。

「僕は、君を愛するために、君を創った。
 愛の形が変われど、僕の、君に対する愛情の深さは変わらない。
 …ユミィを愛している。だから、これからも、一緒にいたい…。」

せいいっぱいの言葉だった。

「……。」

ユミィは長い沈黙を続けた。
泣いていた。じわりと肩の辺りが染みてくる。

「ずっと一緒にいても…いいの?」

「あぁ…。」

「私は…。自分の存在が…あなたをダメにしているような気がして…。
 それだけが…たまらなく怖かった…。」

「君がいなくなってしまったら、僕はますますダメになるよ。」

「どうして…? レオンは強い人だよ。」

「君がいてくれるから、僕は僕でいられる。
 強くあれるのも…優しくいられるのも…君がいてくれるから…。」

ユミィが僕の肩から離れ、正面に向かい合う。
瞳からは涙があふれ、鼻の頭がトナカイのように真っ赤に染まる。

「レオン…わたしもレオンの事が好き。」

「ユミィ…愛してる。」

抱き合ってキスをした。
ここから先は…もう…言葉にはならない。

2人は服を脱ぎ捨て…ハダカで抱き合った。

これまで距離を置いていたぶんの愛情が一気に発熱して、2人の魂を駆け巡った。

遮二無二に体を愛し合った。

汚らしく猥褻な音が、部屋中に響き続けた。

レオンはユミィの体をキスマークだらけにした。

ユミィも同じ位置に、愛の証を刻んだ。

唾液が枯れるほど…互いの体にしゃぶりついた。

そして…。
レオンはいよいよ、ユミィの大切なところに、自分の性器をあてがった。

「いいよ…。」

ユミィは迷わずレオンにOKサインを出す。
レオンは少しずつ…ユミィの体内に侵食していった。

ぐっぐっと肉棒を挿入し、すこし止めてはキスをした。
ユミィはなるべく痛みを悟られないように、レオンの顔の横に自分の顔をうずめた。

一番奥まで挿入するまでの間に、ずいぶんと時間を要した。

レオンはそのまましばらく動かずに、ユミィの頭を撫でてあげた。
ユミィの全身が汗ばんでいる。
隠していても、レオンには壮絶な痛みが伝わってくるようだった。

少しずつ…少しずつ…レオンはユミィの中で性運動を行った。
ねっとりと濡れたユミィの膣がレオンの肉棒を濡らし、体温はレオンを暖め、快感へと導いた。

射精感が高まるにつれ、レオンはすこし不安な顔をして、ユミィの顔の覘いた。

「出そうなの…?」

悟ったのか、ユミィが尋ねてきた。

「うん…。」

「だいじょうぶだよ、赤ちゃんは産めないけど…。
 レオンの出したいように出して…。」

そう、言われる間か、言われた直後か…。
レオンの肉棒は禁を失い、ユミィの膣壁の中で大量の生殖液を放出していった…。

ユミィはそれに気づいたのか、うれしそうな顔をした。
射精の間、ずっとレオンとユミィは抱き合ったまま視線を合わせた…。

長い余韻の後、ペニスを抜き去ると、ユミィの秘所から血液と精液の混じった液体がこぼれた。

その晩、2人は夜が明けるまで眠らず、ずっと裸で抱き合っていた。
共に生きていこうと、手をつないで、愛を誓った。


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