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1-2.魔法学園 << >>

「おはよう諸君、マジックアカデミーへようこそ!」

校門の所に立っていたのはなにやら鳥人族と見られる先生だった。
大きな体に人間と変わらぬ四肢、そして大きな翼に鋭い眼差し。
それと、竹刀。こ、これは新入生を歓迎する道具なんだろうか…。

アカデミーの校舎は広い。
敷地を全部含めれば、島ひとつぶんくらいにはなる。

つまりこの校門をくぐっても、教室まではまだまだ十分な距離があるわけで。

チャイムが鳴る前に教室へ行くには、実に15分は余裕をもってこの校門をくぐらないといけない。
それが最初にサツキ姉ちゃんから聞かされたことだったけど。
ほんとうに広い。なんの予備知識も持たずに学校内を歩かされたら、迷子になってしまうだろう。

僕ら新入生は校門からすぐ近くのところで一度点呼をとって待機し、
全員揃ってから先生に案内され、教室まで向うことになった。

集まった新入生の数はわずか10名。
通常の学校と比べて1クラスの生徒数が少ないのは、
魔術を学ぼうとする生徒がそもそも少ないことと、
それなりに裕福な家庭でないとここの学費がとても払えないということらしい。
見た感じ、みな歳も離れている。ユウより年上と見られる生徒が過半数を占めていた。

先ほど見かけた赤髪の女の子もいた。
さすがに周囲の人はみな初対面。先ほどの明るさは消えていた。
手渡された書類を手にしつつ、目をちらちらさせている。

「やぁっ、君も、11歳なんだってね。」

「うん、君は?」

教室へ行く途中で話しかけてきたのは、ラスクという少年だった。
彼もユウと同じ11歳。アカデミーに入るために猛勉強をしたらしい。
背丈はユウよりも小さいが、とても元気な少年だ。
教室に入るまでに、彼は歳の差関係なしに、たくさんの生徒に話しかけていた。

こういうとき、人見知りしないやつは得だよなぁ。
女生徒に対してもおかまいなし。こいつは手が早いぞ。

ガラリ!

先生を先頭に、教室へ入る。
教壇を最下層に、階段状に机が高くなっていくスタイルの教室だ。
席は多いが実際の生徒数は10名。詰めて座ればスカスカだ。

僕はとりあえず最下段からひとつ上の段、左奥の席に荷物を下ろした。
深い意味はないが、やはり中央よりは端のほうが性に合ってる。
黒板はやや見づらくなるが、先生との視線は合いにくい。
続いて僕の後ろ側の段に数人の生徒が座る。見た感じ年上の生徒だ。
先ほど僕に話しかけたラスクは、後ろの段の、右奥側。
左右で位置が離れているため、僕の声は届かい。

そして僕の隣に座ったのは…。

「隣、いいかな?」

赤髪の女の子だった。
彼女は僕の返事を待たず、ストンと腰を落としてカバンを棚にしまう。
ツインテールをしていても腰に届く長い髪。体に不似合いなLサイズのジャケット。
ジャケットだけでワンピースのような着方ができる、明らかなサイズ違いだ。
スカートは…。はいてない、のか?

この学校は服装が自由であることも有名だ。
さきほど校舎内を歩いたときも、明らかに異なる制服を身に着けている生徒がいたし、
自分に合わせて制服のデザインを改造している生徒もいた。

「はーい、それじゃあ注目ー!!」

僕たちを案内した青い髪の先生が、教壇に立った。
魔女風のいでたちに、大きな黒ぶちメガネが印象的だった。

「えーとこれから1年、あなた方の担任となるアメリアです。
 みんなよろしくっ、それじゃあさっき渡したプリントと、筆記用具を出してくれるかな?」

校門のところでは見なかったが、10枚綴りくらいの大げさな書類。
字も小さく、難しい文字が多かったので僕は思わず見るのをやめてしまった。

「うーんと、学校の案内とか、魔法アイテムを使うときの注意事項とか、
 そのほか難しいことは家に持って帰ってからじっくり読んどいて。
 それで8枚目のプリントなんだけど、これだけ外して今記入してほしいのね。」

どれどれ。
8枚目のプリントだけ、解答欄のついた質問形式のものだった。
名前に、入学の志望動機、趣味、特技…?

「簡単に言うと自己紹介ね。
 いちおうアカデミーでこれから私たちが教えることは、
 それなりにリスクとコストをかけたことなの。
 だから、入学する以上は、賢者の称号を得るまでは簡単に途中退学をしてほしくないの。
 それを証明するためにね。面倒なんだけど学園のルールだから、
 ちゃっちゃっと書いちゃってくれる?」

「はーい。」

志望の動機、かぁ。
僕はサツキ姉ちゃんを追って入学したけど、
これはこのまま書いていいのかな?
嘘で適当なことを書いても仕方ないし、書いてしまおう。

隣の女の子もじっとプリントを凝視した後、サラサラと慣れた筆跡で書き始めた。
名前は「A・L・O・E」…。
アロエ…? 変わった名前だなぁ。

特に詰まることなく最後まで書ききった僕たちは、プリントを回収して先生に渡す。

「それじゃー、体育館で集会があるから、荷物だけ置いて来てくれるかな。」

この日は、アメリア先生に連れられて、体育館での演説を聞いた後、
のんびり生徒一同校舎を歩いてまわった。学校なのに、庭園あり、森もあり、
ひとつの島に相当するという言葉は、決して大げさではなく。

再び荷物のある教室へ戻ったときは、僕たちは全員お疲れモードだった。
唯一元気だったのは斜め後ろのラスク君と、その隣のシャロンさん。
いや…彼女の場合は、疲れてないフリをしているだけかも。よく見ると肩で息をしている。

「お疲れ様、今日はここで終わり。
 本格的な授業は明後日からだから、今日はみんな家に帰って早く休んでね。」

なんか少し物足りなかったが、僕たちは荷物を抱えて教室を出た。
同い年のラスク君が待っていたとばかりの僕のところへ来る。

「いやぁ、よかったら一緒に帰ろうよ。
 君も、正門側から帰るんだろう?」

「う、うん、そうだけど?」

「今朝実は後ろのほう歩いていたんだぜー。
 君、気づかなかっただろう。」

「えー、そうだったの?」

僕の視線は赤髪の女の子に注がれていたわけで。

「よかったら君も一緒にどうかな。」

「あ…、うん。」

続いてアロエちゃんにも声をかける。
なんというか、ラスク君はまったく性別というものを意識していない。
背丈も似たり寄ったりの僕たちは、3人で今朝歩いた桜並木を一緒に歩いた。

「それじゃあ、11歳なのは僕たち3人だけなんだね。」

「あとのクラスメートはたしか14歳だと思う。
 本来はジュニア級の魔法学校を卒業してから入学するはずだから。」

「ラスク君はどうして魔法学校に?」

「ん〜、僕? そりゃあ賢者になって大金持ちになるためさ!」

なんとも分かりやすい理由。
彼は家が大富豪で、11歳のくせにマネートレードや商業に興味があるらしい。

「アロエちゃんは?」

ちょうどよい話のフリがあったので、彼女にも聞いてみた。

「うーんと、魔法を覚えてお医者さんになりたいの。
 お父さんとお母さんが医者と看護士だから、それを手伝いたいなって。」

これも分かりやすい理由。
医者に憧れる11歳というのも珍しいなあ。

「ユウ君は?」

「ん、ん〜、えっと…。」

2人の視線が注目する。

「お姉ちゃんがアカデミーで教師をしているから、それで。」

「へ〜、ねーちゃんが先生なのか! すっげぇなぁ。」

意外と驚かれた。
僕の志望動機が一番曖昧で、大して格好よくもない。

「ユウ君のお姉さんって、今朝学校を案内してくれたあの人?」

「ちがうちがう。さすがに兄弟だと担任にはなれないみたい。
 集会のとき、一番端に立っていた、水色の長い髪に白い服を着ていた先生だよ。」

きょとんとする2人。
そりゃそうだ。入学式に先生の顔など全員チェックするわけがない。

僕たちはなんとなく打ち解けて、気持ちよく帰路を歩いた。
隣の席に座ったアロエちゃんも思ったより気さくで、話しやすかった。
僕は初対面の人と話すのは苦手だったが、ラスク君のおかげで思ったより会話が弾んだ。

「それじゃーココで! さいならー!」

「今度一緒に遊ぼうよ!」

「うん、よかったらうちに来なよ、アロエちゃんもね!」

「うん、行く行くー。」

最後まで元気なラスク君。
本当はもう少し話し込んでおきたかったが、
僕は家の前で2人と別れ、自分の部屋に戻った。

サツキ姉ちゃんは帰るのが夕方になるだろうから、
今日は今朝もらったプリントでも読んで、ゆっくり休もう。
2人との会話で疲れを忘れていたけど、部屋に戻ってから、校舎を歩いた疲労がガクリと来た。

僕は、制服を脱ぎ散らかして、布団に飛び込み、そのまま眠った。


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