「へぇ、ユウと同じ11歳の友達ねぇ…。」 「うん、初対面だったけど、すごく話しやすかったよ。」 慣れた朝食風景。今日もサツキ姉ちゃんの焼くトーストは、絶妙の焼き加減だった。 「なにはともあれ友達ができてよかったじゃない。 他の同級生とも仲良くなれるといいわね。」 「うん。」 レタスにトマトにハム。 ドレッシングはサウザンアイランド。 僕がこの家に居候して以来、彼女の料理は磨きがかかるばかりだ。 1日の休みを挟み、今日から本格的な授業が始まる。 渡された教材をカバンに詰めると、けっこうな重量だ。 僕はガッと熱いコーヒーを流し込み、姉ちゃんと自分のぶんの食器を片付ける。 料理ができないぶん、後片付けは僕の仕事だ。 「それじゃあ、今日は一緒に学校行こうか。 ユウも少し早めに学校に行って、校舎に慣れなさい。」 「うん。」 姉ちゃんの作ったお弁当をカバンに詰めて、 TVのスイッチを切って、リビングの電気を消して。 まだ履きなれない革靴にズボッと右足を差し入れる。 「ほらー、そうやって履くと底が潰れちゃうでしょー。」 「ごめんー。」 左足だけ靴べらで挿入。 なんかもうちょっと放任主義って感じになれないのかな。 バタンと重い木製の扉を閉めると8段ほどの石段がある。 その坂道の下が、おなじみの桜並木の一本道だ。 「あ、おはよー。」 「おはよう!」 アロエちゃんだ。 なんと彼女は、ユウの2軒隣の家に住んでいた。 こともあろうに、姉に僕のリボンの位置を正される姿を、彼女に見られてしまった。 「お姉さん、ですか?」 「あらこんにちわ、ユウの同級生の子ね。」 「姉ちゃんお願いだから僕のリボンの位置を勝手にいじらないで。」 「なんで?」 「なんでじゃなくて…。」 うちの姉弟は実家にいたときから仲が良かったが、 う〜ん、入学早々ブラコンシスコンのレッテルは嫌だぞ。 僕はサツキ姉ちゃんと微妙な距離を保ちながら、近所の同級生のアロエちゃんと学校に向かった。 ラスク君がいないといまいち会話が弾まない…、というか、姉ちゃんのペースから振り切ることができない。 学校に着くまで、なんか僕だけ妙にてんぱっていた。 姉ちゃんとアロエちゃんは、校舎の入り口のところで僕たちと別れ、職員室に向かった。 アロエちゃんのほうは担任の教師と話があるとか。 僕はひとりで教室に行き、ドスリと荷物を置くとカバンの中身を一応チェック。 まだ僕の他に、教室には誰もいない。ちなみに教室は建物の3階。 校庭を見下ろすと、気持ちよく全景が見渡せる。 魔法学校というのが信じられないぐらい普通の教科書。 やはり魔術と平行して普通の勉強もするのだとか。 たしかにいくら魔法が使えても世間知らずのおバカじゃあ、賢者とは言えないけど。 苦手な算数に、外国語の勉強まで。おなじみの理科社会に、母国語…。 う〜ん、いたって普通の学校だ。 少し時間差を置いて教室に入ってきたのはアロエちゃんだった。 一直線に最下段まで降りてくると、ためらいなく僕の隣に座る。 「お姉さん綺麗な人だね。」 「う、うん。ちょっと前まで幽霊だったけど。」 「?」 「あ、いや、気にしないで。」 サツキ姉ちゃんが幽霊だったのは本当のこと。 まぁそれが人間になって、ここの教師として働いているわけだけど。 知り合ったばかりの同級生に話す話題じゃないな。 「アメリア先生と、何を話していたの?」 「え? うーん、お家のこととか、色々」 「おうち?」 「うん、お父さんとお母さんのこと。」 なんだろう? 入学してすぐ相談するようなことだから、深刻な話かもしれない。 ガラリ。 少しして入ってきたのは、ルキアさんとレオンさん、そしてシャロンさん。 みな僕たちとは、3つ歳が離れている、年上の同級生だ。 本来なら、この学校はジュニア級の学校で基礎の勉強を終えてから入学するので、 修練生の年齢はだいたい一律で、14歳になっている。 「おはよー、早いな。」 「おはようございます。」 魔術師という身分の上では僕らはみな見習い。 互いに気を遣う必要などないはずなのだが、やはり年上の人には一歩距離を感じてしまう。 そういう意味では、やはりアロエちゃんとラスク君が、この中では一番話しやすそうだ。 ぞろぞろと、生徒の数が教室内に増え始め、もうすぐチャイムが鳴る。 担任のアメリア先生は、チャイムの鳴る少し前に教室に入り、みなに挨拶をした。 クラスメートの表情が一斉に生き生きとする。 晴れた校舎の空に、高らかに8時のチャイムが鳴った。 |
[PREV] [TOP] [NEXT] |