ホームルームの後、しばしの休憩時間をはさみ…。 はじめの授業を担当したのは、担任のアメリア先生だった。 「いかにも」という魔女風のいでたちに、大きめのとんがり帽子を被ってクラスに現れた。 授業初日、どんな授業をしてくれるのか。 生徒達の期待が高まる。 …だが。 アメリア先生の担当する学科は「語学」。 大魔法でも召還魔法でも治癒の魔法でもなく、 普通のハイスクールでも習うような、ごく当たり前の母国語だった。 授業が始まるや否や、生徒達のズッコケるようなムードが漂った。 そりゃあ僕たちはごく普通の勉強をして社会に出るためにこの学校にきたわけじゃない。 一人前の「賢者」としての称号を得て、魔法使いとして洋々たる人生を歩むためだ。 とうぜん初回の授業がこんなんじゃ、生徒達の不安も高まる。 「せんせー、ここは魔法の学園じゃないんですかー?」 年上の同級生、赤髪のレオンさんが一言もらす。 椅子の背もたれにふんぞり返ったまま、怪訝な表情だ。 「なーにを言ってるの! 魔法使いたる者、頭もよくないと魔法書の一冊も読めないのよ! あなたがこの学校の図書室に行って、1冊でも一字一句間違えずに読める本があったなら、 わたしはあなたに何も教えることはないわ。試してみる?」 「え〜。」 そんな生徒たちの不満を軽く一蹴。 やはり何事をやるにも、基本というものが大切らしい。 とりあえず生徒の基礎力をためすべく、プリントを一枚。 難しくはなかった。姉のサツキのもと基礎学問を叩き込まれたユウにとってはむしろ 退屈な設問ばかりだった。後ろの席で、レオンさんとルキアさんの唸るような声が聞こえる。 それにしても隣の席のアロエちゃん、綺麗な字だなぁ。 彼女も普通の11歳の児童よりも英才教育だったらしく、 ユウが空欄だった設問をなんなく解いていた。 い、いや、カンニングをしたんじゃなく、たまたま彼女の指先をチラ見したら見えてしまったわけで。 その部分の設問は、もちろん空欄のまま提出した。 「レオン君。」 「はい。」 「君のプリント、答え合わせをするまでもなく及第点以下よ?」 「いやあ…いきなりこういう真面目なベンキョーをするとは思ってもなかったし。 魔力だけならたぶん、この中でダントツに高いと思いますけどね!」 「そうかしら。」 アメリア先生がぴらぴらとかざすレオンさんの解答用紙はたしかに空欄が目立つ。 何を書いているのかは距離的に見えなかったけど、あれじゃあ全問正解でも30点もらえるかもらえないかだろう。 アメリア先生はズカズカとレオンさんの座る席の近くによる。 そしてドシリと、重たい魔法書を一冊レオンさんに持たせ、ページを開く。 「自分の周囲に結界を張る魔法よ。少し学のある子なら14歳でもスラスラ読めるわ。」 「結界って、ここで張ってなにをするんです?」 「急いでその呪文を詠唱しないと、あなたとっても痛い思いをするわ。」 「??」 そういうと、彼女は魔法の杖を天にかかげて意識を集中する。 つむがれていく呪文は、ユウにも聞き覚えのあるものだった。 呪文の詠唱がはじまると、途端に周囲が暗くなった。 アメリア先生の目は、とても慈悲に満ちた表情だった。 だがその詠唱している魔法は…。 内容を把握したのか、レオンさんがあわてて結界を張る魔法を詠唱する。 しかし一字一句詰まりながらの詠唱では、アメリア先生の詠唱にはまったく間に合わず…。 ピシャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!! 天からほとばしる雷が、レオンさんの脳天を直撃した。 手加減しているとはいえ、一列下のユウの席まで、髪の毛の焦げるニオイが伝わる。 「いーてー!!」 「語学を勉強する気になったかしら?」 「せ、せんせい…。」 「なにかしら。」 「これはスパルタってもんじゃないんですか。。」 「愛のムチよ。」 全員からプリント用紙を回収するころにチャイムが鳴り、 アメリア先生はリズミカルな足取りで教室を去る。 続いて白髪のご老人、 見た目だけなら誰より魔法使いっぽいロマノフ先生。 彼の担当学科は「理数」 やはりどこのハイスクールでも学べるような、普通の理系学問だ。 物質の組成やら気象学の基礎やら、化学変化や地層学。 おもしろいといえばおもしろいけど、やはり魔法とは直接関係ない…。 次に見た目の穏やかなエリーザ先生。 いいや、穏やかと厳しさを同時に備えた女性という言い方が正しいかも。 担当学科は「社会」。 政治や経済、歴史といった世の中の基本的な構造を学ぶ。 初回の授業は淡々と、自己紹介と、授業の流れだけを説明して自習にした。 初回から実践派のアメリア先生とは大違いだ。 最後に始業式に校門で見かけたガルーダ先生。 やはり竹刀は肌身離さず持ち歩いている。 「魔法使いたるもの体力も必要だ。 君らにはしばらく、学園の地理を覚えてもらうためにも、 基本中の基本といえる訓練を行ってもらう。」 全員体操着に着替えて校庭へ。 もちろんその基本中の基本という訓練というのは、誰もが察した通り。 ケルベロス2体に追われての校内マラソン。 もちろんそのケルベロスを従えているのはガルーダ先生。 走っているというよりは、地面スレスレを、半分飛んでいる。 「おそいー、おそいぞぉ。 こんな体力じゃあ魔法の反動に耐えられないどころか、 ホウキから落ちたショックだけでも十分逝けるぞぉ。」 校門から、アカデミーの敷地内である浮遊島を一周。 一番スパルタっぽい内容だったのは、この人の授業かも。 チャイムが鳴るまでに一周できたのは、レオン、ラスク君の2人だけだった。 あまり体力に自信のないユウは、チャイムが鳴り終わった後、へろへろになってゴールイン。 数名がゴールできずにリタイヤを宣言した。 初日はこんなんだったけど、広い敷地に個性豊かな先生達。 これからの学校生活は楽しくなりそうだ。 |
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