[BACK]


3-1.打ち上げ << >>

高ぶった気分のまま下校。
今でも掌が少し汗ばんでいる。

よくやった。
頑張った。
この調子でこれからもガンガン前に進みたい。

隣を歩くアロエちゃんも上機嫌だ。
表情は明るく、足取りも軽い。

力を合わせればなんだってできる。
そう思えた。

「これからどうしよう?」

「うん?」

「しばらく試験もないし、何をすればいいかなって。」

「そうだね。」

勉強と練習ばかりで少し疲れた。
たまには違うことがしたい。
それとなく、彼女の心情を探る。

「今日はお父さんもお母さんも家にいない日だから、
 ユウ君に家に居てほしいな。」

「ああ、忙しいんだね。」

「うん。医者だから、帰ってこない時は何日も帰ってこないし、
 帰ってきても、家でやる仕事があるって言ってあんまり遊んでくれないの。」

「それはさみしいね。」

「さみしいよ!」

ユウの姉、サツキは逆にユウの側から離れている場合のほうが少ない。
一瞬だが、アロエちゃんの状況がうらやましく思えてしまった。

「それじゃあ、このままアロエちゃんの家に行こう。」

「やったぁ!」

声のテンションが一気に高くなる。
そんなに嬉しいことなのだろうか。

アロエちゃんの家は、アカデミーから1本伸びている桜並木道の先、
ユウの家からもそれほど離れていない。
石段を登り、大仰な玄関を開けるとかわいらしい家具が現れる。
家は3人家族にしては大きく、厳しい造りをしているが、
一度中に入ればそれは女の子の住む家、ガラッとイメージを変えられる。

丸っこいインテリアに、ぬいぐるみ。
幼児期から今までずって持っていたかのような遊具。
もっと薬臭くて書類が散乱しているような部屋を想像していたけど、
実際のアロエちゃんの家は、目に入るものすべてがファンシーだ。

両親も、なるべくアロエちゃんと接する時だけは仕事と結び付けたくないのだろう。
リビングや、家族全員で使う通路から離れた小部屋や階段の隅には、
それらしい医学書や書類が積まれていた。

ドスリと荷物を置き、座布団に腰掛ける。
ふだんなら、このまま2人で勉強会。
余計なことを考える暇はないのだが。

「何をしよう?」

「テレビでも見ようか。」

正直、迷ってしまう。
緊張の糸が切れた状態。
何をしてもよいという開放感と同時に、
何をしたらよいのかという自問自答が心にやってくる。

アロエちゃんは自分の分とユウの分、2人ぶんのリンゴジュースを冷蔵庫から出し、
そのままユウの隣に座った。

TVを付けると題名も知らないドラマが放送されていた。

「テレビとか見ていること多いの?」

「そうだね。友達が遊びに来てくれればいいんだけど、
 友達が帰ったあとはずっと一人だよ。」

「ごはんとかどうしてるの?」

「自分で作るよ!」

「偉いなぁ。」

「でも、同じものになりがちで、あまり楽しくない。」

「そうかぁ…。」

ユウは家事全般がサツキと交代交代。
料理は姉のほうが上手だが、
自分の料理だけでは飽きるといってユウもたまに料理を作らされる。
ダメ出しされる事のほうが多いけど。

「ユウ君、ご飯、食べていってよ。」

「えっ? うん、いいよ。」

「それじゃあ、買出しに行こう。」

「何を作るの?」

「にんじんとじゃがいもあるし…無難にカレー?」

「定番だねぇ。」

上着だけはおって玄関を出る。
スーパーは並木道の先、商店街の中心部に位置している。

なんだか照れくさい。
お姉ちゃんに何て説明しよう。
今日は遅くなるって言ってはおいたけど…。


[PREV] [TOP] [NEXT]