学食に行き、紙パックの緑茶だけを買って教室に戻る。 ちょうど菓子パンを買いに行ったアロエちゃんに合流する。 「あれ? ユウ君お弁当どうしたの?」 「お姉ちゃんが届けてくれた。」 「さすが、ユウ君のお姉ちゃん…。」 アロエちゃんには職員室呼び出しの事を言わなかった。 余計な心配をさせてはいけない。 昨日起きた出来事は楽しかった、それでいいじゃないか。 姉にもらったお弁当をどうにか平らげて。 適当にトイレでも行くフリをして職員室に向かった。 滅多なことでは行かない職員室、通路は薄暗く、静まり返っている。 「失礼しまーす。」 ガラリと戸を開けると、職員室にいた教師陣は数名だった。 昼寝をするガルーダ先生、携帯ゲーム機で遊ぶマロン先生、 ロマノフ先生やフランシス先生は別の仕事があるのか、職員室にはいなかった。 サツキのデスクは職員室の端、ちょうど近くに別の教師もいない。 「あら、早かったのね。」 「昨日はその、心配かけてごめん。」 「いいのよ、ちゃんと連絡を入れてくれたし、そこは別に問題ないわ。」 「うん…。」 姉ちゃんは、僕のために壁側に折りたたまれていたパイプ椅子をひとつ取って僕によこした。 怒っている様子はない。いつもの姉ちゃんだ。優しく丁寧で、落ち着いている。 「昨日は、アロエちゃんの家に行ってたのね?」 いきなり突きつけられた本題。 やはり、そこが聞きたかったらしい。 「そうだよ、放課後遊びに行って、そのまま。」 「そう。」 姉ちゃんがお茶のティーバッグを出して、2人分のお茶を作る。 一瞬表情が固まった後、ポットからマグカップにお湯を注ぐ。 「本当を言うと安心しているのよ。あの子ね、忙しい両親の一人娘で、 家に帰るといつも一人だから、早くお友達が欲しいって言ってたの。」 「昨日…聞いたよ。彼女から。」 「11歳の女の子がひとりで暮らすというのは、大変な事なのよ。 私もアメリア先生も、よく相談されたわ。 その日の晩ご飯の作り方から、夜のひまつぶしの方法までね。 すごくいい子だし、がんばり屋さんだから、私も彼女を応援したかったの。」 「なるほど…。」 そういえば、アロエちゃんは入学直後、ちょくちょく職員室に通っていた。 誰でもいいから頼れる人が欲しかったのだろうか。 「でも、ユウがあの子のボーイフレンドになってくれるのなら、私は安心だわ。」 「ボーイフレンドって、僕はまだ…。」 「違うの?」 「僕は彼女になにもしてないし、なにも言ってない。 ただ気が合うからよく遊んでいるけど、 好きとかどうとかいうわけじゃないんだ。」 「ずいぶん激しく否定するのね。」 「激しくもなにも…それが、事実だよ。」 一緒にお風呂には、入ったけど。 「アロエちゃんのほうは、そう思ってないかもしれないのよ?」 「それは…。」 「アロエちゃんに好きだと言われたら、あなたはどうするの?」 「分かんないよ。」 「あら、無責任ね。」 「姉ちゃんにそこまで干渉して欲しくない。」 「そうね、ごめんなさい。もう干渉しないわ。 でもユウ、これだけは言わせて。」 「…なに?」 「男なら、自分の行動に責任を取れる人になりなさい。 責任から逃れたり、誰かに押し付けたりするような大人になってはダメ。」 「そんな事、分かってるよ…。」 「なら良し。」 そう言うと、姉ちゃんはデスクの引き出しを開けて、 ギンガムチェックの紙袋に包まれた小箱を僕に差し出した。 「これ何?」 「アロエちゃんと貴方のお守り。」 「?」 サツキは紙袋を、僕の制服の内ポケットに強引に入れた。 なにが入っているか分からないが、重たい物ではないらしい。 「それじゃ、アロエちゃんによろしくね。」 「あ、姉ちゃん。」 「なに?」 「お弁当、ありがとう。」 「いえいえ、2人分作らないと落ち着かないのよ。」 僕は職員室を後にした。 もうすぐお昼休みが終わる頃だ、校内放送がスピーカーから流れてくる。 次の授業に遅刻しないよう、足早に教室に戻った。 |
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