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4-3.ドミノ倒しははじまって << >>

例の件以来、アロエちゃんは僕に対してぐっと大胆になった。

決定的な言葉はなにひとつ交わしてないものの、
周囲の認識も、もはや僕達はカップルそのもの。
僕とアロエちゃんは付き合っているものだと、誰もが信じて疑わない。

放課後は毎日のように一緒に過ごし、買物にも出かけた。
今度のお祭りに向けての浴衣も、一緒に買った。
秋らしく、紅葉の印刷された子供っぽい柄だ。

けれど…。
それは決して、いい事ばかりじゃない。
デメリットだってある。当事者にしか分からないような悩みだけど。

たとえばペアを作るとき、みんな僕とアロエちゃんの2人だけは避ける。
放課後だって、他の男友達と遊ぶ機会がめっきり減った。

あいつらはデキているからと、毎日からかわれるのも考え物だ。

アロエちゃんはアロエちゃんで、僕はもう自分のツバを付けたのだから、
この人は私のものよと言わんばかりの態度に出る。
ジュースを買っておけば知らぬ間にアロエちゃんの机の中に移動しているし、
授業中のノートは知らぬ間にアロエちゃんの鞄の中に入っていて、
翌日何事もなかったかのように返って来る。

そんなに困ったことではないのだけど、他の友達と遊べないのは困りものだ。
たまにはラスク君とも遊びに行きたいし、レオンさんやセリオスさんのグループとも交流がしたい。
どうも僕はあの日以来、アロエちゃんと無意識に距離を取っていた。

けれども…。

気がつけば隣にいて、僕の袖をつまんでいるのだからたまらない。
同じ学校内にいる限り、僕はアロエちゃんの手から逃れられそうになかった。

そんなある日の事…。

アロエちゃんは両親の帰省に伴って、学校を休んでいた。
学力だけなら年上の生徒にもひけを取らない彼女は、このくらいのわがままは許された。

ちょうどその時、ロマノフ先生の授業でこんな話が持ち上がる。

魔法の力を使った乗り物をクラスで作るという催しだ。
やはり2人1組でペアを作り、設計図を描く段階からスタートし、
最終的に完成品に乗り込んで、テスト走行をする。

機械的な動力である、モーターやバッテリーの類は使わない。

魔法石の授与数は、テスト走行の結果により決められ、
よりスムースに、速く安定して走れたペアに多くの魔法石が贈られる。
途中で故障したり、動かなかったり、リタイアしたペアは減点対象となる。

「よっ。」

いきなり僕の席の隣に来たのはラスク君。
アロエちゃんが欠席という事もあり、この催しはラスク君と組むことになった。

「どんなの作ろうか?」

「せっかくなら格好いいのがいいなぁ。」

「戦闘機とか?」

「でもロマノフ先生は、飛行する乗り物はやめておけって言ってたよ。」

「高く飛ばなきゃいいんでしょ? それなら問題ないよ。」

こういうお題にすぐさま食いつくのは男子生徒だ。
レオンさんもタイガさんも、水を得た魚のように設計図を描き始めた。

この授業の要点は、魔力を駆動力に変換するロジックをマスターするためのものであり、
乗り物本体の完成度は求められていない。
だから、乗り物本体の支柱や装甲はアカデミー側から最低限のものしか支給されず、
僕らは自力である程度材料を揃えなければいけなかった。

そんなわけで、お金持ちのボンボンであるラスク君の邸宅へ。

装飾付きの大掛かりな塀に囲まれた大仰な屋敷は、
桜並木の商店街から少し外れた郊外にある。
障害物が少なく見渡しもよく、乗り物を作るには最適な場所だ。

ついでに材料費に関しても、ラスク君の家に頼めば無尽蔵ときている。

僕らは、実在する戦闘機をモデルに、
地面スレスレをホバリングするイミテーションを造ることを構想した。
僕らはまだ飛行訓練を受けておらず、あまり地面から高いところを飛ぶと、
墜落した時命の危険に晒されることになる。
だから、ホバリングするのはあくまで地面から1〜2メートルの高さだ。

「お父さんに材料の手配を頼んできたよ!」

「早いね、どうだった?」

「2〜3日で納品されるって。その間は動力部分の組み立てに使うことにしよう。」

「OK、それじゃーアカデミーから支給された魔導エンジンを取り出して…。」

エンジン部分は、術師から発せられる魔力を吸収し、
回転運動に換えるモーターのようなものだ。
この部分は支給された部品を組み立てるだけで完成する。

僕とラスク君は、邸内の倉庫を工場とし、戦闘機の開発に取り掛かった。
この日は要のエンジン部分を組み立てるだけ。
ついでにその構造と仕組みをノートを見ながら復習する。

エンジンが組みあがる頃、ちょうど日没の時間となった。

僕はラスク君の家族と軽く挨拶をして、サツキのいる自宅に戻った。
アロエちゃんはこの日、久しぶりに帰ってきた両親と共に遊園地に出かけたらしい。
夜になってから彼女から自宅に電話がかかってきた。

とても元気な声だった。


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