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4-4.止まらない亀裂 << >>

「えーっ!?」

翌日、またロマノフ先生の授業になった時、
アロエちゃんは目を大きく開いて驚いた。

理由は単純、自分のペアの相手が僕ではないこと…。

僕とラスク君は、既にロマノフ先生に設計図を提出し、OKサインをもらった後だった。
アロエちゃんは結局、ロマノフ先生の奨めでまったく設計図の進んでいない、
ルキアさんとシャロンさんのペアに混ぜてもらう結果となった。

じろり。

「なんかこっち見て睨んでるよ…。」

「だって昨日、アロエちゃん居なかったんだもん…。」

なんで私じゃないのと言わんばかりの態度。
終始うらめしそうな表情でこちらを見ていた。

「乗り物を作るだなんて、野蛮な男達の趣味ですわ!」

「でもさ〜シャロン、授業なんだから適当に作って流そうよ。」

「ユウ君、どうして…。」

あからさまにやる気のない3人。
あれでは作業はとても進まないだろう。

僕とラスク君はこの日もラスク君邸の倉庫に行って工作を進めた。
2〜3日かかると思われた材料は、翌日すぐに届いており、
この日はプロペラ、シャフト、そして翼に当たる部分を作った。

組み立てるのは全部品が揃ってからだ。
この日は、晩ご飯をラスク君の家でごちそうになり、
僕が家に帰ったのは夜9時をまわってからだった。

それからというもの、アロエちゃんと会う回数が、めっきりと減った。
もちろん校内では隣の席に座っているのだから、顔も合わせるし会話もする。

しかし、以前のように部屋に泊まったり、夕食をつくってもらったりするような事はなくなった。

アロエちゃんも、僕が距離を取りたがっていることを悟ってか、
以前のようにべたべたして来なくなった。
たとえば僕が緑茶を買った時、アロエちゃんが緑茶を飲みたい時は
以前なら僕に断りもなしに無断で口をつけて飲んで、
飲み終わってから新しい物を買って僕の机に入れてくれたのだけど。

いまは同じ銘柄の同じジュースを買って、別々に飲んでいる。

些細な事だが、大きな変化だ。
信号待ちの時に、僕の袖をつかんでイタズラすることもなくなった。

彼女なりに、遠慮していたのだ。

僕に対してあまりにしつこくせまった事が、仇になった事を反省した。
だから、寝る前の電話も最小限しか鳴らさなかった。

もちろん、周りの生徒も僕らの変化に気付き始めた。

ルキアさんとシャロンさんは、工作の件でアロエちゃんに絡んでいることもあり、
僕が相手しないときは、アロエちゃんとよく話すようになった。
これはこれで助かるのだけど…。

ある日、心配したルキアさん達が僕のところにやって来た。
ふだんなら一緒に行く学食も、アロエちゃんに一人で行かせるようになったからだ。

「ユ〜ウ君。」

「わっ。」

背後から僕の首根っこを掴んで抱き寄せる。
僕より首ひとつ分以上背の高い、3つ年上のルキアさん。

「さいきんアロエちゃんとうまくいってないの? ねぇ、どうなの?」

「どうって、なにもないよ…。」

「以前はあんなに親密だったのにね。」

「お弁当を共有、ジュースを共有、ノートを共有、
 椅子と椅子の距離はわずかに5センチ、
 絵に描いたようなバカップルだったのに…。」

「別に付き合ってるわけじゃ…。」

「どうしたの? 嫌いになっちゃったの?」

「嫌いじゃあないよ。」

「大人の女性に目覚めた? ホレ、うりうり。」

(あぁ、この感触はアロエちゃんには無いなぁ…。)

「ちょっとルキア、やりすぎよ。」

「いいじゃん、ユウ君喜んでるし。」

「あ…本当だ。」

いきなりルキアさんの胸に顔を埋められて、僕の下半身はだらしなく反応してしまった。
上着の短い制服に直立姿勢、隠す術は無い。

ガラッ!

「あ。」

「あっ…。」



「Σ」

「アロエちゃーん!!」

5限目に合わせて早めに教室を訪れたアメリア先生と、
学食に寄って教室に戻ってきたアロエちゃんが同時だった。
ルキアさんの胸に顔を埋めてにやにやしている所をもろに見られてしまった。

「あ〜あ…。」

呆れて物が言えないシャロンさん。
ルキアさんはとぼけた顔をして自分の席に座る。
クララさんもとばっちりを食いたくないのでそそくさと離れる。

残された僕は…。

どかりと音を立てて座るアロエちゃんの隣で、無言状態。
浮気をしたわけではないのだが、
あのビジョンは距離を置きつつあるアロエちゃんには相当こたえたはずだ。
言い訳の言葉も思いつかない僕に、アロエちゃんも無言で応える。

"ルキアさんの胸大きかった?"

しまいにゃノートの端っこにこんな質問を書いてきた。
それを受けて、僕も正直に答える。

"やわらかかった。"

"最低。"

"でも服越しだったからよく分かんなかっ"

ドスッ!

最後の文章をまだ書ききっていないのに、
縦拳をあばら骨にぶち込まれた挙句、その日は口を利いてくれなかった。


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