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4-5.ひとりぼっち << >>

クラスメイト達の乗り物の製作が、佳境に入った。
ラスク君とペアを組んで作った戦闘機はほぼ完成し、
あとは試運転を待つばかりとなった。

アロエちゃんとルキアさん、シャロンさんのトリオも乗り物を完成しつつあった。
それというのも、シャロンさんの家の小間使いが器用な人間で、
シャロンさんの描いたラフスケッチを見るや否や、自分が製作を代行すると名乗り出たのだ。

完全なる他力本願だが、工作になど興味の無いシャロンさん達はこれで十分なのかもしれない。

おかげで僕もアロエちゃんも自分達の課題が終わり、
自由の身となったのだが、いまいち会う機会がみつからない。
共同で行うような作業も今のところないし、
僕はといえば製作が難航しているレオンさんやタイガさんのグループを手伝うために、
夜遅くまで校舎に居残ったりして思いのほか忙しく。

アロエちゃんと一緒に遊べるような時間は、ほとんど作れなかった…。

会う時間はあるはずなのに、それができない。
この距離が彼女を少なからず苦しめていることは、分かっているのに。

会えば今度こそ、互いの立ち位置を正確に決めなければいけない。
そうしたら、もう後戻りができなくなる。

ただ一度、部屋に泊まって食事をごちそうされただけ。
2人の間にある既成事実は、いまのところこれだけだ。
だから、僕のほうから積極的に身を引けば、僕達は元通りただのお友達に戻れるかもしれない。

怖かった。責任を負うという事が。
僕は彼女を幸せにしてあげられるほどの甲斐性はないし、
彼女を守り続けてあげられるほど強い人間でもないから…。

それに、好きだという言葉の意味が、僕はまだいまいち分からない。

この時期、アロエにとっては辛い時期だった。
両親は再び遠くの診療所から引っ張りだこで、当分家に帰ってこれなかったし、
同級生はみな課題に追われ、家で遊ぶような暇もなく、
頼みの綱であるユウとも微妙な隙間が広がったまま…。

夕方一人で家に帰って、自分だけの夕食を作るのが憂鬱でならなかった。
誰だって食事をする時ぐらい、親しい間柄の人間と談笑しながらいただきたいものだ。
帰宅途中、近所の家庭からこぼれる笑い声が、妬ましかった。

唯一彼女の癒しとなった存在は、同級生であるシャロンの家で産まれた仔猫。
ちょうど引き取り手に困っていたシャロンは、
アロエの現状を知って、里親になってもらう事を提案した。

彼女の家は広い。
通学中は家を空けるとはいえ、小猫なら問題なく飼育することができた。



ミルスと名前を付けられた雌猫は、完全なる雑種猫。
尻尾は丸まっているし、柄も靴下模様付きの不恰好な黒猫だ。

もともとこの子猫の親も、シャロンが正式に飼育していたものではなく、
シャロンの広い屋敷の片隅に、外から迷い込んできた猫が勝手に住み着き、
いつの間にか子猫を出産してしまった事が始まりだ。

気が付けば合計5匹の大所帯。
追い出すわけにもいかず、しぶしぶ面倒を見ていたらしい。

しばらくは、この子猫がアロエの心の支えになっていた。
帰宅直後にドアを開けた瞬間、嬉しそうな顔をして走りよってくる姿が愛らしかった。

(お祭り、一緒に行けるかな…?)

せっかく買いに行った紅葉の浴衣も、壁掛けとして飾ったままだ。
毎年恒例の盛大な夜祭りは、およそ一ヵ月後。
ユウとの関係がぎくしゃくしたままでは、これを着て一緒に行けるかどうかはあやしい。
どうにかして、彼との関係を修復しないといけないと思った。

アロエは、初めから好きだという意志を持ってユウに接していた。
いつからだろう。一緒に召喚魔法の練習をしていた時からか。
あの無邪気な横顔と、たまらなく素直な性格が好きだった。

寝所を共にしたとき、生まれて初めて自分が濡れているという事に気付いた。
もちろんそれはユウにも言っていないのだが、初めての経験だった。
自分の体が大人になったという実感を、大好きな人の隣で味わえたのだ。
だから、運命を感じずにはいられない。

ひとりぼっちのベッドに、まだユウの体温が残っているような気がした。
抱いて寝ると、まだ微かに温かいのだ。
アロエとって、ユウの存在は、それほどまでに大きくなっていた。

眠れない。
悩みを抱えているから?
カーテンからこぼれる星明かりが今日はやけにまぶしい。

アロエは一度起きて、カーテンの隙間を閉めなおし、再度ベッドに入った。


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