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5-2.ひみつの会議 << >>

「嫌いとは言わなかったんでしょ?」

「でも、好きとも言ってくれなかったよ。」

「授業中言う人はいないでしょう…。」

「私、どうしたらいいかな…。」

「男は、一に押し、二に押し、三に押しで落とすのよっ。」

「それ男の人が女の子を口説くための理論でしょ…。」

「要するに積極的になりなさいって事よ。」

「う〜ん…。」

アカデミー校舎南側にあるひまわり畑。
お昼時は野外でランチを取る生徒達であふれかえる。



元々はそのような暗黙の了解はなかったのだが、
教室ですぐにお弁当を食べてしまうラフな男子生徒に対し、
屋外で雰囲気を楽しみながら食事を取りたいという女子生徒の割合が
圧倒的に高かったことからいつしかここは女子生徒専用の場所と化し、
男子が近寄ることのできない秘密の花園と化していた。

もっとも、登下校時は誰でもここを通らねばならないため、
お昼時以外は男子生徒も普通に通る。
ただし、ベンチやテーブルを使っての休憩はご法度だ。

アロエは、ここのところランチを同級生であるルキアやシャロンと共に取っていた。
今日は同じくクラスメートのクララさんと同席。

ユウとの関係を復旧させるため、仲の良い同級生を味方につけたのだ。
ひとりで悩んでいても仕方がないし、復旧のめどが付かない。

「私ならケンカ別れしてそうだなー。」

「貴女は気が短いからね。」

「現に2人を見てるとじれったいのよ。」

「くっつきそうでくっつかない、離れそうで離れない。」

「そうだね…。」

「ユウ君体育倉庫に拉致ってあげようか?」

「乱暴なのはやめてよ。」

「縛れば言う事を聞いてくれるかもよ?」

「ユウ君が変な属性に目覚めちゃう…。」

「ルキア、真面目に相談に乗ってあげなさいよ。」

ルキアは、売店のおにぎりをバクバクと食べながら相談に乗る。
相談に乗っているというよりは、おもしろがって見ているという表現が合ってるかもしれない。

「とにかく、腹を割って話し合った方がいいわね。」

「私もそう思います。」

「でも、1対1で会ってくれないんじゃあねぇ…。」

「捕獲網と、麻縄と、粘着テープと…。」

「ルキア。」

「ごめん、じれったくて…。」

「正式にデートの約束をするのはどうかな。」

「した事ない…。」

「いままでどうしていたの?」

「放課後は一緒に帰るのが当たり前だったし、そのまま遊ぶのも日課だった。」

「それがいつの間にか通らなくなったと。」

「うん…。」

「ダメ元で誘ってみればいいじゃない。それで断られたらもう縁が無かったと思ってさ。」

「断られるのが、怖いよ…。」

「でもこのままじゃあ、どちらにも進まないまま自然消滅するのが見えてるわ。」

「うぅ〜…。」

「勇気を出す時よ、アロエちゃん。」

最初は静かに聞いていただけのクララだったが、年上の女性として強く押す。

「どこに誘おうかな。」

「ホテル。」

「体育倉庫。」

「2人とも!」

ボケに徹するルキアとそれに便乗するクララを、シャロンが制する。

「遊園地は?」

「近くにないよ…。」

「ユウ君の部屋。」

「普通にサツキ先生いるけど…。」

「そこで三者面談ですよ。」

「ユウ君を私にください。」

「ちょ。」

「いい加減にしなさい。」

シャロンさんがパンを握っていた手をゲンコツに変える。

「お祭り、一緒に行きたいんだよね…。」

「あの、神社の麓の?」

「そう。」

「でも賑やかな場所で真剣な話をするのもね…。」

「思い出のある場所だから。」

「そうなんだ。」

眺めのよい神社の山と、立ち入り禁止の廃線の線路。
ユウとアロエが仲良くなりはじめた頃、よく行った場所だ。

「それじゃあお祭りに誘うに決定?」

「あぁ〜、でも。」

「?」

「ちょうどその日、ユウ君とラスク君がレースの試運転で遅くなるかもしれないんだ。」

「あら…。」

「彼を試すにはいい機会かもね…。」

「男同士の友情を取るか、アロエちゃんとの恋愛を取るか。」

「お祭り自体はかなり夜遅くまでやっているだろうから、私、待つよ。」

「乙女だなぁ…。」

「来なかったら、どうするの?」

「どうしよう。」

「潔く彼の事を忘れる!」

「うん、そうだね…。」

「あら、意外と素直ね。」

「ずっと前から行きたいと言っていた場所だし、それで来なかったら私、諦めるよ。」

「今後、2人を見るのが辛いだろうなぁ…。」

「ああ、そうしたら。」

「なに?」

「クラスの席、ルキアちゃんとシャロンちゃんの間に座っていい?」

「歓迎するわー。」

「ユウ君がひとりに…。」

「そこにタイガあたりがやってきて。」

「ウホッ♪」

「クララ…。」

晴れた日のお昼時、会議は続くのだった。
毎年恒例の夜祭りは週末。一週間を切っていた。


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