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5-3.苦手なこと << >>

金曜日の授業は、野外実習から始まった。

アカデミーのふんだんな土地を有効に使い、様々な練習を行う。
実習用のローブをまとい、森や平原を歩くのは良い気分転換だ。
この日は校庭西側の森林地帯に、アメリア先生、ガルーダ先生と共に出掛ける事になった。

「各自、瞑想開始!」

自然との触れ合いはそれだけで万物の組成を理解し、自身の魔力を高めることに繋がる。
これは、魔法使いの基礎練習中の基礎ともいうべき内容だ。

13名の生徒が円陣を組み、意識を集中する。
生徒達の魔力が目に見えるオーラとなって、体を包み込む。
この状態を維持して10分間。終わる頃にはぐったりと疲労して魔力がカラカラになる。
そうして消費した魔力を再度体内に蓄積する事により、
魔力の絶対量を増やすことができるのだ。

瞑想が終わった後、男子と女子は別々のチームに別れ、
僕たち男子チームはガルーダ先生の指導で戦闘訓練を受けることになる。
女子は、そのままアメリア先生と飛行訓練を行うようだ。

僕はアロエちゃんと簡単なサインで「後でね」と告げ、他の男子生徒と共に森の奥に入る。

戦闘訓練。
正直、僕はあまり得意じゃあない。
誰にでも得意不得意はあるのだが、僕は戦うという事それ自体があまり好じゃないからだ。
2年生に上がると更にモンスターを用いた実戦訓練をするという。
授業とはいえ、魔物と命のやりとりを行うのは避けて通れないだろうか…。

はじめは攻撃術の基礎であるファイアーボールを魔術練習用のカカシに投げつける。
レオンさんやサンダースさんは魔力の高さもあってドーンといい音が出る。

慣れてきた所で格闘技の約束組み手の要領で、2人1組になり攻撃と防御を繰り返す。
攻撃側がファイアーボールを飛ばし、防御側がそれをブロックしてはじき返す。
自軍側に害が及ばぬように、反射する角度を考えてシールドを張らないといけない。
これを連続で交互に繰り返す。まだ最大魔力に乏しい僕らはすぐに疲労感がやってくる。
攻撃側、防御側それぞれ10本を相手を変えながら5セット。
瞬く間に時間は過ぎ去ってゆく…。

キーンコーンカーンコーン。
1限の終了を知らせる鐘が鳴る。
この音だけは、どこの学校も同じなのだろうか。

「それまで、各自休憩ぃ。」

ガルーダ先生の号令により、僕らは水分補給を兼ねた小休止となった。
ラスク君が僕の分のお茶を、やかんから汲んできてくれた。
そのまま木陰で2人で腰を下ろす。

「いやー、バテバテだぁ。」

「僕もだよ、あの半分の時間でいいぐらい。」

「ちなみにこの後の授業体育だから。」

「ガルーダ先生の事だから校庭でまたこれの続きをやりそうだ。」

「それは勘弁…。」

魔法による疲労は精神に来るため、肉体のそれとは異なる。
使い果たせばフラフラになるし、頭も働かない。
僕らは、気持ちを回復させるために芝生にゴロ寝して、空を見上げた。

バチバチッ!

空でいい音がした。
白い煙が立ち上がり、同時に木の上になにかが落ちる。

「なんだろう?」

「さぁ。」

「おしおきか?」

「空で誰をおしおきするんだよ…。」

音がした方へ歩いてみると、翼の焼け焦げた野鳥がびっこをひきながら歩いていた。
致命傷ではないようだが、このままでは飛び立つことはできないだろう。

「あー、これは。」

「雷に打たれた?」

「ちがうよ、アカデミーを保護する防衛網にかかったんだと思う。」

「ひどいなぁ…。」

アカデミー校舎は飛行して長距離を移動する事ができる。
そのため、万が一の時にそなえて校舎をすっぽり覆えるバリヤーのような機能が備わっている。
ふだんは切ってあるのだが、部分的に切り忘れていたりすると野鳥などがかかってしまう事がある。

「ユウ、お前、魔力残ってる?」

「ぜんぜん…。」

「2人でどうにか回復できないかな…。」

「やってみよう。」

野鳥が逃げ出さないようしっかりと抑えて、回復の魔法を唱える。
ファイアーボールと同じく初期で習う治癒魔法だが、
これも性格相性のようなものがあって、得意な者とそうでない者がいる。
ちなみに僕が得意なのは防御術、ラスク君が得意なのは補助術。

「ぜんぜん効いてないよ。」

「魔力尽きてるからなぁ…。」

一向に回復の兆しが見えない小鳥。
その瞳は死を待つかのように頼りない。

「ユウ君!」

後ろからホウキに乗ったアロエちゃんが来た。
向こうも休憩時間だったようだ。
飛行訓練をしていたらしく、愛用のホウキで浮遊している。

「アロエちゃん、ちょうどいい所に…。」

「あ…。」

アロエちゃんは倒れた小鳥を見るや状況を理解したのか、即座に回復の魔法を唱える。
非常に速い詠唱により、治癒の青い光が彼女の掌に現れる。
鳥の怪我はまたたく間に塞がり、焦げた羽が生え変わってゆく…。

「すげぇ。」

「2人分でも回復しなかったのに。」

「えっへん。」

小鳥はあっという間に傷が癒え、僕らを見返ることもなく空に飛び立ってしまった。

「アロエちゃん、回復魔法得意だね…。」

「私、医者志望だよ?」

「忘れてた。」

「ひどーい。」

向こうからホウキに乗ったルキアさんがこちらにやってきた。
そろそろ2限の授業が始まるのを、アロエちゃんに伝えに来たのだ。

「それじゃ、行くね。」

「ありがとう、またね。」

アロエちゃんは、ホウキにまたがり浮遊の準備をする。

「ユウ君。」

「なに?」

「私が、ユウ君の苦手なところぐらいカバーできるって事を忘れないで。」

そういって、彼女は飛び立ってしまった。
真隣にラスク君がいたので、僕はリアクションに困ってしまう。

「妬けるねー。」

「うるさいなー。」

「ところで仲直りしたの?」

「してないよ。」

その後は、2限の野外練習の続きと、3限の体育の授業で僕らはガルーダ先生にしごかれまくった。
4限がリディア先生の家庭科だったのがせめてもの救いだった。


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