今日は新しい内容の授業が多かった。 新鮮な気分での下校。 僕はカバンをひょいと持ち上げ、教室を後にした。 乗り物のテスト走行は週明けの月曜日。 この日は学校の外で組み立てを行った僕達は、搬入のため一度ラスク邸に行き、 再度学校に戻ってこなければいけない。 雑用で職員室に呼ばれたラスク君を待つために校門近くの広場のベンチに座る。 おやつは学食で買っておいたクリームパン。 暇つぶしに実力テストのためのノートを読んでおく。 すっと隣にアロエちゃんの影。 なんだかんだで毎日連れ添っている仲。 足音だけで彼女だと判る。 彼女は無言で僕の座るベンチに腰を降ろし、カバンを置いた。 この光景も、他の生徒から見たらまたバカップルがいちゃついていると思うのだろう。 僕は、相変わらず遠慮のないアロエちゃんに嫌悪感を抱きながら、 無言でノートのページをめくり続けた。 ノートの内容など読んじゃあいない、 アロエちゃんに距離を置いてくれという無言のアピールだ。 「ユウ君。」 「なに…。」 「明日のお祭り、来てくれる?」 「遅くでいいなら…。」 土曜日はテスト走行に向けた最終チェックが残っている。 お祭りは夕方から始まるが、恐らくその時間帯はまだ僕らは校舎の中だ。 アロエちゃんは恐らく、最終チェックなどする気がない。 「遅くなってもいいよ。」 「他のお友達と行けばいいじゃないか。」 「ユウ君と一緒に行きたいから。」 「…………。」 「それに、ユウ君の選んでくれた浴衣も着たいし。」 遅くでいいならと言ったのは、僕が行ける時間は、 お祭りの一番盛り上がっている時間が終わった後になるかもしれないという意味だ。 最悪、メインイベントの花火も見れないかもしれないし、 屋台などがすべて撤収された後の、ゴミ溜めの中を2人で歩くだけという結果になるかもしれない。 「どうして、僕という人間にそれほどこだわるの?」 「好きだから。」 いきなりの告白。 あまりに思っていないタイミングだったため、なにも返事が思い浮かばない。 「僕は……。」 「あのね。」 「?」 「私、再来年からお父さんの職場に近い、医療の専門学校に行くかもしれないんだ。」 「えっ…。」 「魔法は基礎段階だけを徹底的に勉強して、あとは医者になるための勉強を今から始めないと、 大人になった時、医師の免許を取るのが遅れるかもしれないの。」 まさかのお別れ宣言。 アカデミーは滞在年数に限りはないが、たった2年で卒業する生徒はあまり聞かない。 「そんな…この学校で賢者の称号を得てからでもいいじゃないか。」 「私の夢はお医者さんになる事だよ。魔法使いになる事じゃない。」 「でも、それと今までの話と、どんな関係があるのさ。」 「ん…。」 「行かないでなんて、僕は言わないよ。 僕と違って君には明確な夢がある、そこに止める理由はない。」 「たった2年の間かもしれないけど。」 「……。」 「私、ユウ君に会えてよかったと思ってる。」 「どうして…。」 「等身大で言い合ったり、張り合ったり、努力したり…。 そういう関係が築けたのって、私にとってはユウ君が始めてだったから。」 「それは、僕も同じさ…。」 「最初の頃は、よく一緒に遊んだね。」 「うん…。」 「これからも。」 「?」 「卒業まで残った時間を、ユウ君と一緒に過ごしたいな。 今しかできないこと、精一杯、あなたと一緒に。」 アロエちゃんと瞳を合わせた。 まっすぐな瞳だった。 僕以外の何者も見ていない、綺麗なまなざしだった。 「………。」 「ユウ君にも思う事があると思うから、返事は今じゃなくていいよ。」 「ごめん、僕、あやふやで…。」 「明日の夜、神社の石段の下で待ってる。」 話し合っている間に、ラスク君が校舎の正門から出てきた。 それを悟って、アロエちゃんも席を立つ。 「おいーす、待たせてごめんよー。」 「あ…。」 「それじゃ、またね。」 彼女はカバンを持ち上げ、足早にその場を去った。 僕は、待たせたことを済まなそうにこちらに歩いてくるラスクよりも、 アロエちゃんのうしろ姿が気になって仕方なかった。 |
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