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6-2.意地と本音 << >>

8時をまわった。

ラスクの失敗により大破した理科室は、ほぼ元通りになった。
あとは一斗缶に詰められた気味の悪いゴミを焼却炉に運べば掃除は完了だ。
掃除には目算通り2時間を要したが、
魔法石没収などの処置を食らったと思えばこのくらい安いもの。

窓ガラスは、明日にでも業者が張替えにくるだろう。

アロエちゃんは…どうしただろうか。
クラスメートと共に、お祭りをまわっただろうか。
それとも、僕に失望して家に帰っただろうか。

それとも…?

時間が過ぎてゆくごとに、アロエちゃんの事が気になりはじめた。
本当にこれでいいのか。
今日、このまま僕がデートに行かなければ、恐らく2人の関係は終わる。
最低な別れ方。ゆっくり話し合おうと決めた日に、わざと行かないのだから。
その行動が、そのまま別れようという意志を表明している。

ひょっとして、まだ待ってる?

それとも、僕の家に来ている?

ありえない話だが、もし彼女がまだ神社の石段の下にいるなら、僕は最低だ。
月曜日、どんな顔をすればいいだろう。
それでも彼女は、僕の隣の席に座るだろうか。

NOだ。距離を置いてからも彼女が僕の隣に座った理由は、
僕に対してまだ諦めてないからという無言のアピールだ。
僕に対して彼女が興味を失えば、もはや僕の隣の席に座る理由はない。

そして卒業まで、わずか13人しかいないクラスで、僕らは疎遠な関係を続ける…。
一度壊れてしまったら、きっと元には戻れない。

「お前…。」

「なんだよ。」

「気になるならさっさと行けよ。」

「気にしてないよ。」

「今ならまだ間に合うだろ。」

時刻は8時12分。
メインイベントの花火が始まるのが9時。
アロエちゃんは、まだ会場にいるかもしれない…。

「最後まで付き合うっていったら付き合うよ。
 僕は、半端な事をするのは嫌いなんだ。」

「…そうかそうか、勝手にしろ。」

ラスク君と廃棄用の一斗缶を抱えて焼却炉に。
この作業をあと2回繰り返せば掃除は終了だ。

一緒に焼却できるものは…。

ポッケに手を突っ込むと、なにか古びた紙切れが。
購買部のレシート、ノートをちぎって作ったメモ紙。
アロエちゃんにパシリを頼まれた時の、覚書だった。

一枚じゃあない、授業中のミニ手紙なども、
内容がおもしろいものは取っておいた。
2度読み返すことはなかったが、その時は手紙を作ることに夢中だった。

"だれかに読まれたら恥ずかしいよね。"

"いくら私でも、恥じらいはあるの。"

"すぐそうやって話をはぐらかすんだから…。"

"きいてる? 人の話。"

アロエちゃんの文字だ。なんともとりとめのない会話。
たしかこの文章と対になる、僕の発言が別の紙に書かれていたと思うのだが、捨ててしまったらしい。
時間を経ってしまった今では、それがどんな会話内容だったか思い出せない。

「ラブレターでも燃やすのか?」

「ち、ちがう、ポケットにゴミが入っていたから捨てようと…。」

「なに隠してるんだよ。」

「うるさいなぁ…。」

僕は、アロエちゃんの手紙を再度丸めてポケットにしまった。
捨てる勇気はなかった。
すべてが終わってしまいそうな気がして。

「あと4缶。」

「うん…。」

結局最後まで掃除に付き合う事になった。
僕は、カバンを取るために教室に戻り、校門へ向かった。
上着は大掃除のときにホコリまみれになってしまったので、
後日洗濯することにしよう。

この後、どうするか。

ラスク君はこの後家庭教師が来るとか言って、足早に家に帰ってしまった。
夜8時をまわっているというのに、勤勉なことだ。

僕は、飛行訓練用のホウキにまたがり、意識を集中した。
せめて、話し合いだけはしよう。
僕はアロエちゃんの家に向かって飛び立った。

胸騒ぎがする。
急がないと、取り返しのつかない事になる。
もっと早く飛ばないと、早くアロエちゃんの所に行かないと。

長い長いアカデミーの敷地が終わると、桜並木の商店街へ。
直進してゆっくりとカーブ。僕の家を通り過ぎて数軒。
アロエちゃんの家だ。電気はついていない。
ためしにチャイムを鳴らしてみるが、返事はなく。
両親も帰ってきてないようだ。

となると、まだ神社に…?

ここからお祭り会場へは、少し離れている。
一度駅前まで向かい、二股に分かれたT字路をまっすぐ行けば神社のある山の麓だ。
僕は、再びホウキにまたがり、意識を集中した。


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