曲がりくねった山の麓の歩道をホウキで飛行する。 すでにお祭り会場から帰ってくる人たちが何人かいたので、 僕はホウキで飛ぶことを諦め途中から徒歩で神社に向かった。 午後8時45分。 神社の麓はほとんど人が居なかった。 みな、メインイベントの花火を見るため山頂付近に集まるからか。 石畳の左右に展開している屋台はみな営業している。 時間的に客足が少ないのか、店員さんも暇そうな表情だ。 もうすぐ階段が見えてくる。 2人の運命を決める場所。 ここにアロエちゃんがいなければ、 僕は今日、彼女と会話するチャンスが残されていない。 左側には先生達の待機しているテント。 ロマノフ先生が、酔いつぶれたアメリア先生を介抱していた。 その右側には金魚すくいの屋台。マラリヤさんとリディア先生がいた。 石段の下のベンチには…。 すごく疲れた表情のアロエちゃんがいた。 しかしその表情は、僕の顔を確認した途端明るくなった。 「ユウ君…。」 「アロエちゃん。」 すっとベンチから立ち上がり、僕に駆け寄ってくる。 嬉しそうな表情だ。その近くにルキアさんとシャロンさんの影。 どうやら2人が付き添っていたようだ。 「よかった、来てくれた。」 「ごめん、遅くなって…。」 「ううん、来てくれただけで嬉しい。」 「ずっと待ってたの?」 「そうだね、たまにこの辺ぶらぶらしながら。」 「本当にごめん…。」 「いいよ、でも、今日はこの後も、一緒にいてね。」 「うん…。」 「花火、見に行こうか。」 「いいよ。てことは、すぐに山頂まで行ったほうがいいのかな?」 「階段は人が多くて間に合わないと思うから、例の場所で…。」 「ああ、あの場所か。」 ルキアさんとシャロンさんが、僕達に手を振って会場を去った。 あの2人が付いてなければ、アロエちゃんの気も変わっていたかもしれない。 例の場所というのは、廃線の通るトンネルの事だろう。 彼女の話によれば、山頂よりもあの場所のほうが、 花火を間近に見ることができるらしい。 「なにか食べなくていいの?」 「んー、ルキアちゃんがちょくちょく食べ物買ってきてくれたからなぁ。」 「ぜんぜんお腹すいてない?」 「軽いものなら。」 「ワタアメとか?」 「あ、いいかもね。」 途中、屋台にてワタアメをひとつ買う。 大きなサイズのものだったので、2人で分けて食べるのに丁度よいだろう。 「ユウ君。」 「うん?」 「私が食べたいものが分かるの?」 「いいや。寝言でワタアメって言ってた事を思い出しただけ。」 「あー、言ったねぇ。」 「なつかしいな。」 「いつごろの事だろう。」 「新学期が始まってすぐだね。」 「あの頃か…。」 一段一段を、踏みしめる。 これから踏み出すスタートラインに向かって、一歩一歩。 歩幅を合わせて、二人三脚のように…。 山の中腹から、別ルートに入る。 崩れた廃線のトンネル。 とっておきの場所は、この先にある。 だが、昼間に来たときと違って、怖さが段違いだ。 僕はアロエちゃんの手を取り、一歩先を歩いた。 洞窟の構造はよく覚えているが、何も見えない。 暗闇の中で握る、彼女の手の平。 その手は暖かく、やわらかく、そして愛おしかった。 彼女が僕に、一歩寄る。 そして僕も、彼女の掌を自分の身体に寄せる。 不思議と嫌悪感を感じない。 どうして今までこうしなかったんだろうという疑問すら感じる。 お祭りの賑わいのせいだろうか。 それとも、今日が特別な日だからだろうか。 トンネルの先に光が差す。 |
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