急に目の前が明るくなった。 お祭りの照明の明るさじゃあない。 街灯の明るさでもない。 それは、星明り。 夜空に散りばめられた、無数の星たちの輝きだった…。 「きれい…。」 「うん…。」 アロエちゃんが、僕の肩に頬を寄せた。 この際、恥じらいなど感じない。 彼女を手放さなくて良かったという安心感だけが僕の心に満たされた。 もうすぐ花火が始まる。 下界のほうでいくつかの照明が落ち、花火がスタンバイされる。 ちょうどいい時間だった。 「そうだ…。」 「うん?」 「まだ、ユウ君の気持ち、聞いてなかったね。」 「ああ、うん…。」 「今後、私と、どうしていきたいですか?」 アロエちゃんが屋台で買ったワタアメの袋を開け、一口ほおばる。 僕にも一口大にちぎったそれを、食べてと目の前に差し出す。 疲れた身体に、ワタアメの甘さがちょうどよかった。 こういう時、僕はうまい事が言えない。 思いついたことを、箇条書きのように、バカ正直に述べるだけだ。 それでこそ、自分の言葉を自分の意志で伝えた気分になれるから。 「初めて出会った時から、話しやすくて、感性が似ていて、親しみやすい人だった。」 「うん…。」 「でも、いつからか逃げていた…同級生からからかわれるのもイヤだったし、 他の男の子とも一緒に遊びたかった。自由な時間も欲しかったし…。 だから遠ざけもしたし、僕からのアプローチも避けていた。」 「ずっと避けられていたよね。」 「正直、僕はまだ、好きだという感情がよく分からないんだ…。 ドキドキする事がそうなのか、嫌われたくないと思うことがそうなのか…。」 「うん…。」 「はっきり言えることはね、僕はこれからの学校生活を、 君と不仲なまま過ごしたくないって事だ。」 「私だってそうだよ。」 「僕にとって、君は大切なパートナー。だから、失いたくない…。」 「………。」 「それが好きだっていう意味ならきっと…。」 「きっと…?」 「アロエちゃん、僕はいま、君の事がすきだよ。」 「ユウ君…。」 祝福をあげるように花火があがった。 景気のいいのが空の真ん中にひとつ、そしてその左右にまたひとつずつ。 あとは続けざまに、いくつもいくつも。 花火に後押しされたのか、僕は浴衣姿のアロエちゃんの肩に手を添えた。 瞬時に向かい合う。互いの視線が、互いの瞳を映し出す。 そして僕がアロエちゃんの肩を自分の胸へと寄せると、彼女もまた、僕の胸へと滑り込んでくる。 抱擁。力強く抱き合った。 これまでの分も含めて、精一杯。 「あったかい…。」 「ユウ君の手、震えてる…。」 女の子の肩がこれほど細く、華奢な作りをしているんだなと、この時思った。 ずっと待っていたのだ、この小さな肩を震わせながら。 罪悪感と幸福感が同時にやってくる。 味わったことのない感情が、心の中を埋め尽くす。 星明りに照らされたアロエちゃんの瞳が綺麗だった。 吸い込まれるような真紅、ぱっちりとした人形のような瞳。 それが今、僕だけのもの…。 アロエちゃんが背伸びをした。 なにをしてほしいのか、黙っていても分かる。 好きだという気持ちを、行動で表してほしいのだ。 潤んだ瞳、濡れた唇。 それらが徐々に近寄る…。 どちらが先に行動を起こしたのか、僕達は同時に唇を重ねていた。 すぐに広がる、彼女の口腔内の味と香り。 僕とアロエちゃんのファーストキスは、ワタアメの味でした…。 その後、僕らは花火を眺め、会場に戻ってお祭りを楽しんだ。 |
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